「感情労働」で消耗しない——共感力が高い人ほど陥りやすい罠

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医療・介護の仕事は、技術職であると同時に「感情労働」だと思う。

患者や利用者の不安に寄り添い、怒りを受け止め、悲しみに付き合う。その感情的な負荷は、業務量の数字には表れない。でも確実に、人を削っていく。

私が「感情労働」という言葉を知ったのは、もう消耗しきった後だった。「なぜこんなに疲れているのか」がようやく言語化できた瞬間だったとも言える。

この記事の目次

感情労働とは何か

社会学者のアーリー・ホックシールドが提唱した概念で、簡単に言えば「感情を管理することが仕事の一部になっている労働」のこと。

笑顔を保つ、怒りを抑える、共感を示す——これらは意識していなくても消耗する。特に医療・介護は、その密度が高い職場だ。

そして管理職はさらに複雑だ。患者・利用者への感情労働に加えて、スタッフへの感情労働も重なる。部下の不満を受け止め、チームの空気を整え、上司には問題なく見せる。二重、三重の感情管理が日常になる。

共感力が高い人ほど消耗しやすい理由

面白いことに、この仕事に向いていると思われる「共感力が高い人」ほど、感情労働による消耗が激しい傾向がある。

なぜか。共感力が高いということは、相手の感情を「もらいやすい」ということでもあるから。

患者が苦しんでいると、自分も苦しくなる。部下が落ち込んでいると、自分も引きずられる。この「感情の伝染」は、共感力の低い人には起きにくい。だから共感力が高い人は、相手に寄り添いながら、自分も消耗する。

さらに、共感力が高い人は「自分が消耗していること」に気づきにくい。相手のことを考えているうちに、自分の状態を見失う。気づいたときには、もう底をついている。

私が経験した「底をつく感覚」

ある時期、毎日仕事から帰るとソファから動けなくなっていた。食欲はある。眠れる。でも何もしたくない。テレビも見られない。ただ、ぼーっとしている。

身体的な疲れとは違う、感情の空っぽな感覚。後から思えば、それが感情労働による消耗のサインだった。

当時の私は、それを「気合いが足りない」と思っていた。だから余計に自分を追い込んだ。それが間違いだったと、今は分かる。

消耗しないためにやっていること

完全に消耗しない方法はない。でも、消耗のペースをコントロールする方法はある。今の私がやっていることをいくつか紹介する。

「感情のオンオフ」を意識的に作る
仕事中は感情を開く。帰り道から少しずつ閉じる。玄関を開けたら仕事の感情は置いてくる——そういうイメージを持つだけで、持ち帰る感情の量が減った。儀式的だが、効果がある。

「共感」と「同化」を分ける
共感は「あなたの気持ちは分かる」。同化は「あなたの気持ちに私もなる」。前者は必要、後者は消耗のもと。「共感しながら距離を保つ」技術は、訓練で身につく。

感情を吐き出す場所を持つ
日記でも、信頼できる同僚との会話でも、なんでもいい。感情を溜め込まずに出す場所を持つことで、感情タンクが一定以上たまらないようにする。

「消耗しながら働く」を当たり前にしない

医療・介護の職場では、消耗することが「仕方ない」「この仕事はそういうもの」と思われがちだ。私もそう思っていた時期がある。

でも今は違う考えを持っている。消耗を減らすことは、仕事の質を下げることではない。むしろ逆だ。感情の余白があるほうが、より深く患者に向き合えるし、スタッフとの関係も安定する。

自分の感情を守ることは、利己的ではない。それが長く現場に立ち続けるための、プロとしての選択だと思っている。


※この記事は個人の経験と見解に基づくものです。心身の不調が続く場合は、専門家への相談をお勧めします。

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